第8章 星霜の雫
「いや、それにしても零の宣戦布告、格好良かったね」
小洒落たバーの一角で、千がフルートグラスを傾けながら言った。
「…零……超イケメンだった……!すっっごい格好良かった!!もう、一気に100回くらい惚れ直したっ!」
興奮したようにどんどん、とカウンターテーブルを叩きながら百が続く。
『………言ってしまった………超恥ずかしい………消えてしまいたい………』
そんな千と百に挟まれて、カウンターテーブルに突っ伏す零。耳まで赤いのは、お酒に酔っているわけではなさそうだ。
「新しい伝説を作ってやる……か。うん、いいね、次の曲の歌詞に入れよう」
『やめて……思い出させないで……今なら火が吹けそう…』
「すっっごい格好よかったっ!!映画の、ワンシーンみたいだった!!さすが、オレの可愛い零!!最高に可愛くて、最高に格好いいよ!!」
終始興奮しながら、嬉しそうにはしゃぐ百。なんだかいつも通りに戻ったような彼を見ていたら、恥ずかしさだとか、そんなことどうでも良くなってきてしまった。
百の笑顔が見れたから。
千の笑顔が見れたから。
―――心から笑う二人に、また会えたから。
『……でしょ』
零は頬を染めながら素っ気なくそう答えて、グラスに注がれていたノンアルコールのシャンパンを一気に喉の奥に流し込んだ。シュワシュワと口の中に広がっていく強炭酸が、今の気分に丁度良い。
空になったグラスに再びシャンパンが注がれて行く。こぽこぽと底から湧き上がる泡が消えて行くのを見ながら、ふと、別れ際の天の表情が脳裏を過ぎった。