第8章 星霜の雫
―――天は今、どんな顔をしてるんだろう。
あの日―――どんな気持ちで・・・九条についていったんだろう。
天が九条のそばにいるのは―――本当に、自分の意思なの―――?
あんな哀しげな顔を見たら、そう確信していたことさえも揺らいでしまいそう。
天。
あなたの本当の心はどこにあるの―――?
『………』
「零、手が止まってるよ」
千の声に、はっと我に帰る。慌ててグラスを持ち直して、再び注がれていたノンアルコールのシャンパンに口をつけた。
その横で、百が口を開く。
「零、ありがとう。すっごい嬉しかった…。庇ってくれたんだってわかってても、本当に嬉しかったよ」
百の言葉に、思い切り首を横に降った。
―――だって、あれは、庇ったんじゃない。
むかついたから反論したんでもない。
つい、口走ったことでもない。
百と千なら。
みんなとなら。
―――超えられるって、思ったんだ。
『…庇ったんじゃないよ。本当に、思ったんだもん。ね、千ちゃんと百も、そう思わない?』
そう問いかければ、千と百は顔を見合わせてから、くしゃり、と笑った。
「思うっ!!」
「思う思う」
『でしょ』
三人は笑い合いながら、グラスを掲げた。
グラスの交わる上品な音が、静かなカウンターに木霊する。
朧げだけど、たしかに灯りが見えた、そんな夜だった。