第8章 星霜の雫
「…てんてん…?」
「天お兄ちゃん…!」
「天…お兄ちゃん…?!」
理の言葉を、環は驚いて聞き返す。
「何言ってんだ、てんてん…あんたはりっくんの兄貴だろ!理は俺の…っ」
「昔の話でしょ。今は戸籍上、理は僕の妹だ。彼女に乱暴しないで」
「てめえ…っ、わけわかんねえこと」
殴りかかろうとする環に、理が叫ぶ。
「やめて、兄ちゃん!天お兄ちゃんにひどいことしないで!」
「理…なんで…」
「兄ちゃん…兄ちゃんのこと大好きだよ。ずっと、会いたかった。でも、わたしには新しい家族が…九条さんと、天お兄ちゃんがいるの。特に、九条さんには、返し切れないくらいの恩がある。里親になってくれた人の借金を肩代わりしてくれて、わたしの面倒を見てくれて…おまけに、きれいな服を着せてくれて、海外で歌やダンスのレッスンをさせてくれたの!」
「なんで……」
「わたし、アイドルになるんだ!ゼロを超えるアイドルに!私には無理かもしれない。だけど、ゼロを超えるアイドルを育てることが、九条さんの夢なら…私はその気持ちに応えたい…っ」
「なんだよ…それ……誰なんだよ、九条って…!」
その時、後ろからコツ、コツという上品な足音と共に、声が聞こえて来た。
「―――遠い昔に、ゼロと同じ夢を見た男だよ」
そこには、何処か影のある雰囲気を纏った 一人の男が立っていた。