第8章 星霜の雫
言ってくれればよかったのに、と言う百に、後輩の親の悪口は言いたくなかった、と千は続けた。
「僕たちとはウマが合わなかったけど、完璧主義の天とは、九条もうまくいってるみたいだしね」
「千さんはどうして、九条さんと組まなかったんですか?」
一織の問いに、千は昔を思い出すように答えた。
「……九条はにこやかだけど、強引な男だ。…強引じゃ済まない…何かに取り憑かれてる…」
「…取り憑かれてる…?」
「…あいつが顔に怪我をしたのだって、九条が僕たちを手に入れるために、仕組んだんじゃないか。今でも僕はそう思ってる」
千の言葉に、零はこくりと喉を鳴らした。
―――ずっと、千と同じことを、思っていたから。
自分の父親の会社が倒産したきっかけを作ったのだって、おそらくは九条の仕組んだことだったんじゃないか。
あまりにタイミングが良すぎて、そう思わずにはいられなかった。
父の会社が倒産危機に陥ってすぐに、九条から養子にならないか、と話が来た。
そして―――天にも。
天の両親の店も、同時期に経営不振に陥っている。
繋がりがないなんて、とてもじゃないけれど、思えなかった。
「……天にぃはどうして、そんなヤツを信用してるんだ……九条が正しいなんて、やっぱり俺は思えない……」
悔しそうに言う陸に、千が続ける。
「今日、九条を見かけた。天の収録の見学に来てるらしい」
『!』
「え……」
「興味があるなら、おまえたちも会ってくるといい。だけど、気をつけろ。あの男の闇は深いぞ」
「………」
しん、と静かになる室内。
陸が覚悟を決めたように、口を開いた。
「…行く」
『陸……』