第8章 星霜の雫
コンコン、と簡素なノックをすれば、部屋の中から「どうぞ」と千の声が聞こえてくる。
零はドアの前で小さく深呼吸をしてから、笑顔を作ってドアを開けた。
『百、千ちゃん、お疲れー!……って…陸と一織くん!?』
Re:valeの控室に、何故か陸と一織がいる。零が驚くように二人を見つめれば、陸が嬉しそうに駆け寄って来た。
「零ねぇ!昨日話してたやつ、Re:valeの二人に許可取りに来てたんだ!ほら、中座から前座にさせてほしい、って話」
『…ああ!そうだったんだ!それで、許可もらえた?』
「うん!大丈夫だって!」
嬉しそうな陸に手を引かれながら、零が控室の中心にある椅子に腰掛ければ。
「……零……」
百が、掠れた声で名前を呼んだ。その表情からするに、やっぱり零の予想通りあまり会いたくはなかった様に見える。
「モモ、僕が呼んだんだ。最近ゆっくり話せてなくて寂しかったから。な、零」
『え…あ…うん…』
気まずい空気の流れを変えるように、一織が口を開いた。
「そういえば、千さんにもうひとつお伺いしたいことがあったんですが。千さんの相方について」
「…ああ。何?」
「相方さんが消えたきっかけは、たしか、強引なプロデューサーに目をつけられたせいでしたよね?もしかしたら、その方と一緒にいるかもしれません。差し支えなければ、プロデューサーさんのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「ああ…。プロデューサーの名前は―――九条だ」
瞬間、陸と零が大きく目を見開く。
その横で、ハッと気づいたように百が千に問うた。
「え……?九条ってもしかして…。天の養父も、有名なプロデューサーって聞いたけど…」
「ああ…同じ奴だよ」
陸が震える拳を握りしめる。
「…九条…Re:valeにも近づいてたのか…」
「その人、七瀬さんのご両親がお店を失うきっかけになった人ですよね…」
「そうだ…俺たちの元から、天にぃを連れてったやつ…」
『………』