第7章 心音に触れられない
『百……大丈夫?』
「百さん……」
収録を終えてすぐに、零と陸が百に駆け寄る。百は嬉しそうに笑ったけれど、その笑顔はすぐに曇ってしまった。
「…何が悪いんだろう……」
「千さんのこと、まだ信用できませんか…?」
「信用してるつもりだよ…だけど、心の奥で疑ってるのかな…。あはは」
そう言ってごまかすように笑う百に、二人の胸はずきずきと痛む。なんて言えばいいのか、なんて必死に頭を回していれば、百が零に向かって言いづらそうに口を開いた。
「…零、ごめんな…オレのせいで、天と喧嘩しちゃって。それもこれも、全部、オレの声が出ないせいだ。ごめん…」
『なんで謝るの…!百は何も悪くないよ!謝るのは私の方なのに…。お願いだから、自分のこと責めないで』
百は眉を下げて悲しそうに笑うと、ぽんぽんと零の頭を撫でた。
「天のところに行っておいで。オレは大丈夫だから。二人が仲直りしてくれなきゃ、オレはもっと自分のこと責めちゃうかも」
『…行かない。今は百の側にいる』
「あはは。嬉しいけど、今は天が先。この前譲ってもらったんだから、今日はオレが譲らなきゃ」
そういって百はぐい、と零の背中を押した。
「お願い、行って、零」
俯きながら、零の背中をぐい、と押し出した百。
背中に触れる手のひらから、早く行ってくれ、という気持ちがじんじんと伝わってくるようだった。
『……百』
「オレの気が済まないの!それに、今は一人でいたい気分。ね、わかるでしょ?……陸、零を天のところまで連れて行って」
「え?でも」
戸惑う陸の耳元で、百が囁くように言った。
「お願い、陸。これ以上、カッコ悪いオレを零に見られたくないんだ…」
「……っ!」
何を話しているのかと不安そうに見つめている零。そんな零を見ながら、陸は百に"わかりました"と小さく告げて、手を取った。
「行こう、零ねぇ」
『……』
「オレは大丈夫だから。また後でちゃんと連絡するよ」
『…わかった』
陸に手を引かれながら、零は何度も振り返る。
笑って手を振っている百は、今にも消えてしまいそうなくらい、儚く見えた。