第7章 心音に触れられない
「思ってない」
『……千ちゃん!』
「……ユキ……」
「そんなことで悩んでたのか。それが原因で歌えなかったのか?」
「……だって……」
百が俯けば、千の後ろから楽屋に入ってきた楽と龍が続く。
「百さん、違います。千さんは節目のコンサートだったから、相方さんに来て欲しかっただけなんだ」
「ちゃんと百さんのことを、本物のパートナーだと思ってます。そうですよね、千さん」
楽と龍の迫るような言葉に、千は「まあ、そうね」と素っ気なく答えた。その答えが気に入らなかったのか、楽が続ける。
「そうねって…。びしっと言ってあげたらいいじゃないですか。おまえの他に代わりはいないとか。おまえだけが永遠に俺のパートナーだぜとか」
「楽くん。抱かれたい男No. 1の子と違って、僕は恥ずかしがり屋なんだよ」
「俺だってシャイっすよ」
「「それはない」」
天と龍の言葉が重なる。
じっと百を見つめる千に、百は眉を下げながら口を開いた。
「無理しなくたっていいよ。ユキは優しいから、オレを見捨てられないだけなんだ」
「そんなことないって」
「本当は前の相方とやりたいんでしょ?」
「………。そんなことな……」
「ほらー!間があった!」
『ちょっと千ちゃん!!』
百と零に一気に責められる千は、手で口を押さえながら慌てるように答えた。
「違う違う。くしゃみが出そうだっただけだ」
「そうやって、いつも誤魔化す!オレは知ってるんだからな!夜な夜な昔のアルバムめくってること!」
『あ!私もこっそりアルバムめくってるとこ見た!!見せてって言っても見せてくんないの!すぐ隠すの!』
「ちょっと…零まで……隠したのは、夜な夜なアルバムめくってるところ見られて恥ずかしかったからだろ……今度ちゃんと見せるよ。親友が行方不明になったんだ。少しくらい、感傷に浸らせてくれよ」
「お酒が入ると、いつも昔の相方の思い出話ばっかりするし!そうだよね!?零!」
『そうそう!あいつはこうだった、とか、あいつはあんなところがどうだった、とかそんなんばっか!!』
「ごめん、ごめん。二人して怒るなよ。寂しくなるだろ」
「たまにぼそっと、あいつは出来るのになとか、言ったりもするでしょ!」
「言ってないよ」
「『言いました!!』」