第6章 声を聞かせて
『百!!ちょっと百!!起きて!!』
「んー……あと十分……」
『大変なんだってば!!早く起きて!!』
ゆっさゆっさとくるまっていた掛け布団ごと体を揺らされて、覚醒しきっていない頭が徐々に目覚めてくる。まだ重たい瞼を両手でごしごしと擦りながら、百は布団からひょこっと顔を出した。
「……んー……どうしたの?………ん?」
顔を出した瞬間、何かが焦げたような臭いが鼻を掠めた。
『こっち!!早くきて!!』
「なにがあったの!?」
何事かと飛び起きた百が、零に連れられキッチンへと行ってみれば。
フライパンの上に、真っ黒な物体がのっていた。
「な……なにこれ!ダークマター!?」
『卵焼きが焦げた!!それで、フライパンも焦げた!!この前ネットショッピングで千ちゃんが買ってくれたやつなのに……!』
慌てた様子の零があまりに可愛くて、百は思わずぷっと吹き出した。
「あははっ……!!卵焼きって、こんな黒くなるんだ!超うける!」
爆笑しながら、ぱしゃぱしゃと卵焼きの写メを撮り始める百。
零はそんな百を恨めしそうな顔で見つめている。
『笑いごとじゃないんですけど……ねえ、フライパン!どうしよう!』
「大丈夫大丈夫、ユキはジェントルマンだから、こんなことくらいじゃ怒らないよ!また新しいの、買えばいいじゃん!今度はオレが買ってあげる!」
励ますような百の言葉にも、零の眉は困ったように下がったままだ。
キッチンを見渡せば、一生懸命料理をしたのであろう残骸が広がっていて。昨日、手料理が食べたいなんて言ったから、朝早く起きて作ってくれたのかな、なんて思うと、たまらなく愛おしくなる。そんなことを思いながら、百は菜箸で零の作った卵焼きを掴んで、皿にのせた。
『ちょっと何してんの!?』
「何、って。朝ご飯、食べるんだよ」
『はあ!?それはだめ!!白いご飯はちゃんと炊けたから!そっち食べて!』
「だーめ。零が作ってくれたんだもん。オレにとっては、どんな高級フレンチ食べるより美味しくて、幸せなの」
『…っ!体に悪いってば!』
「大丈夫大丈夫!モモちゃんの胃袋なめんなって!」