第6章 声を聞かせて
胸が締め付けられるような感覚も、気がおかしくなりそうなくらい愛おしい感情も、全部、全部、零が初めてだから。
オレは本当に幸せ者だと思う。
今日だって雨のなか探しにきてくれて。側にいてくれて。さっき言ってくれた言葉のひとつひとつに、こんなに思ってくれてるんだって、胸がじんわり温かくなって、かっこ悪いけど、思わず涙が溢れてきた。
でも、オレは知ってる。
零がオレを”思う”感情と、オレが零を”想う”感情は、きっと交わることなんてなくて
これからもずっと、オレの一方通行だって。
わかっていても。それでも。
どうしたって諦められないんだ。
想いを伝えて、零との関係が壊れるくらいなら。このまま側に居る方がずっといい、なんて。そんな風に、自分に言い訳して。
すやすやと規則正しい寝息を立てる零を見ていれば、たまらなくなって。思わず小さく口を開く。
「……好きだよ、零」
やっぱり、声に出せば、どうしようもなく胸が苦しくなった。
抑え込んでいた好きがどんどん溢れて、収拾がつかなくなりそう。
決して届かないこの想いも、胸をくすぶる劣情も、掴めない手のひらも。今更諦めきれるものではなくて、代わりに蓋をして鍵をかける。
ぎゅっと目を閉じて、ゆっくり深呼吸。待てもお預けもちゃんとできる、なんて言ったくせに、その決意があっさりと砕けそう。
そんな自分に自嘲気味に笑ってから、気持ちよさそうに眠る零のおでこにそっと唇を落としてから、耳元で囁いた。
「……おやすみ」
くすぐったそうに一度身じろぎをした零だったが、どうやら起きる気配はない。そんな姿にさえあっさりと心を溶かされてしまうのだから、相当重症なのだろうと自分自身に呆れてしまう。
できることならこのままずっと朝まで、可愛い寝顔を見ていたいけど。そんなことしたら、体が持たないことは重々承知している。
雑念を振り払うように、頭まで掛け布団にくるまって、ぎゅっと目を瞑る。
ももりんが一本、ももりんが二本・・・呪文のように唱えていれば、あっという間に睡魔に襲われた。