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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第6章 声を聞かせて



胸が締め付けられるような感覚も、気がおかしくなりそうなくらい愛おしい感情も、全部、全部、零が初めてだから。


オレは本当に幸せ者だと思う。
今日だって雨のなか探しにきてくれて。側にいてくれて。さっき言ってくれた言葉のひとつひとつに、こんなに思ってくれてるんだって、胸がじんわり温かくなって、かっこ悪いけど、思わず涙が溢れてきた。

でも、オレは知ってる。
零がオレを”思う”感情と、オレが零を”想う”感情は、きっと交わることなんてなくて
これからもずっと、オレの一方通行だって。


わかっていても。それでも。

どうしたって諦められないんだ。


想いを伝えて、零との関係が壊れるくらいなら。このまま側に居る方がずっといい、なんて。そんな風に、自分に言い訳して。


すやすやと規則正しい寝息を立てる零を見ていれば、たまらなくなって。思わず小さく口を開く。



「……好きだよ、零」



やっぱり、声に出せば、どうしようもなく胸が苦しくなった。
抑え込んでいた好きがどんどん溢れて、収拾がつかなくなりそう。

決して届かないこの想いも、胸をくすぶる劣情も、掴めない手のひらも。今更諦めきれるものではなくて、代わりに蓋をして鍵をかける。

ぎゅっと目を閉じて、ゆっくり深呼吸。待てもお預けもちゃんとできる、なんて言ったくせに、その決意があっさりと砕けそう。

そんな自分に自嘲気味に笑ってから、気持ちよさそうに眠る零のおでこにそっと唇を落としてから、耳元で囁いた。


「……おやすみ」


くすぐったそうに一度身じろぎをした零だったが、どうやら起きる気配はない。そんな姿にさえあっさりと心を溶かされてしまうのだから、相当重症なのだろうと自分自身に呆れてしまう。

できることならこのままずっと朝まで、可愛い寝顔を見ていたいけど。そんなことしたら、体が持たないことは重々承知している。



雑念を振り払うように、頭まで掛け布団にくるまって、ぎゅっと目を瞑る。

ももりんが一本、ももりんが二本・・・呪文のように唱えていれば、あっという間に睡魔に襲われた。



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