第6章 声を聞かせて
暗い部屋の中で、時計の針の音だけが静かに響いていた。
百はなかなか眠りにつくことができず、ぼーっと天井を見上げていた。
ふと、くるり、と横を向いてみる。すると、ソファの上で毛布にくるまって眠る零の寝顔が見えた。
百は音を立てないようにゆっくりと体を起こし、顔にかかっている髪をそっと除けてやった。
白い頬にかかる長い睫毛と、少しだけ開かれた形のいい唇。静かな部屋の中に、彼女のすぅすぅという小さな寝息がやさしく広がっていく。
「……無防備なヤツ」
無防備すぎるその姿に、思わず本音が口から漏れる。白い頬をつん、と人差し指でつつけば、零はくすぐったそうに身じろぎした。そんな姿も、どうしようもなく愛らしくて。
――オレだって、男だよ?ねえ、ちゃんとわかってる?
思わず、そう言ってしまいたくなる。
思えば、三年前。
テレビ局で君を見つけたあの日から。
たぶん、きっと。
君と目が合ったあの瞬間から。
オレは君に、心を奪われたまま。そこから動けずにいる。
手を伸ばせば届きそうな距離に、それはあるのに。
それを望める勇気が自分にないことを、知っている。
だって、隣で笑ってくれているだけで、たまらなく幸せなんだ。
どんなに疲れてても、むかつくことがあっても、零の笑顔を見るだけで、全部どっかに吹っ飛んでいっちゃう。あれ?オレ、何にむかついてたんだっけ?って思っちゃうくらい。まるで、魔法にかけられたみたいに。
『百』って、オレの名前を呼んでくれる瞬間も、どうしようもなく好き。
零が名前を呼んでくれるだけで、なんでもできそうな気がしちゃう。それだけで、今日も一日頑張ろうって、今日も一日ハッピーだったな、って思えちゃう。
不思議だね。