第6章 声を聞かせて
「え!零、もしかして帰ろうとしてる!?」
『当たり前でしょ』
「ユキがいる時は泊まっていくのに!?オレしかいない時は泊まっていけないっていうの!?」
『寝てる間に、モモ狼に何かされたら嫌だもん』
「しないよ!!ひどい!!モモ狼は、ちゃんと待てもお預けもできるもん!!」
『はいはい』
「本当だよ!あ、それにまだ写メ撮ってない!今日はオレの言うこと聞いてくれるんでしょ!?」
『……待って。側にいるね、とは言ったけど、言うこと聞くとか言ってないし!何当たり前のように話盛ってんの!?』
「どっちも同じだろ!はい、今夜は帰しませーん」
百はそういって、零の手元から着替えを奪い取った。
『返せバカ!!』
「だーめ。あ!ちゅーしてくれたら返してあげてもいいよ?」
そういって百は着替えを後ろに隠してから、人差し指を唇にあててウインクして見せた。
『うざ……』
「ライブでやるとすっごい歓声あがるのに……」
しゅん、と露骨に落ち込む百の姿に、零ははあ、とため息をついてから洗面台へと向かった。
「どこ行くの?」
『……歯磨き』
零の答えに、百の顔はパアア!と明るくなる。
とことん自分は百に甘いなあ、なんて自嘲気味に笑ってから、零は二度目のため息を吐いたのだった。