第6章 声を聞かせて
少しの沈黙が流れたあと、百が小さく口を開いた。
「……ね、零」
『……ん』
「……オレも……抱き締めていい?」
百の言葉に、零ははっとして百から体を離した。
勢い余って抱き締めてしまったけれど、自分のしてしまったことに気付いた零の顔はみるみるうちに赤く染まっていく。
百がくるりと振り返る。彼の瞳は赤く腫れていて、大きな瞳からは大粒の涙がぽろぽろと零れていた。
『ごっ……ごめ……――』
言いかける零の言葉を遮るように、今度は百が零の体を思い切り抱き締めた。
「ありがとう……零」
どくどくと高鳴る心臓が、聞こえてしまいそう。百の匂いでいっぱいになって、頭がうまく回らない。
「オレってば、ホント幸せ者……」
『も、もも……?』
「……もーちょっと、このまま」
いつまでそうしていただろう。
壁に掛けてある時計の針の音だけが、部屋の中に静かに響いていて。
それはなんだかひどく穏やかで、落ち着く時間だった。