第6章 声を聞かせて
百がお風呂場に駆けて行ったのを確認してから、零は部屋の片づけを始めた。
せっせと片付けていたみたいだけれど、よく見ればただクローゼットに詰め込んだだけの光景に思わず笑みが零れてしまう。
『だらしないんだから、本当』
独り言を溢しながら、散らばっている服を丁寧に畳んでいく。すると、ばたばたと足音が聞こえてきた。
「ねえ零!髪乾かして!」
『早!?』
髪を濡らしたままの百が、肩にタオルをかけて走ってきた。彼がお風呂場に行ってから、まだ10分と経っていない。
『ちょっと!ちゃんと洗ったの!?』
「洗ったよ!?何があるかわかんないから隅々まで綺麗にしました!」
『ばっ…!ばかじゃないの!?』
「あ!零、もしかして照れた?想像した?」
嬉しそうに聞く百に、零は顔を真っ赤にしながら畳んでいた服を投げつけた。
『変態!!』
「あはは!照れてる零、超可愛い!」
投げつけられた服を見事にキャッチした百は、ドライヤーを持ったまま零に駆け寄る。
「早く!髪渇いちゃう!」
『……もう!髪乾かしてとか、子供か!』
「いいじゃんいいじゃん!今日は甘やかしてくれるんでしょ?」
『……いつもと大して変わんないじゃん』
ぶつぶつ言いながらも、零はそのへんに転がっていた延長コードにドライヤーのコンセントを挿した。
『はい、こっちきて』
「わーい!」
まるで尻尾を振るわんこのように、駆け寄ってきた百が零の前に座る。
『……ていうか、お風呂早すぎじゃない?もう少しゆっくり浸かってくればよかったのに』
「だって、零がいるのにもったいないじゃん?あ、零が一緒に入ってくれるなら、別だけど!」
そういって百は、振り返って笑った。
『…!ばっかじゃないの!』
勢い余って、ドライヤーの温風を百の顔に”強”で充てる。
「熱っっ!?」
―――熱いのはこっちだよ!
バカ百。
百がそんなことを言うものだから、耳まで赤くなっているのがよくわかる。
気付かれないように、百の顔を無理矢理前に向けてから、ドライヤーを彼のふわふわの髪に充ててやる。もうほとんど渇いているじゃないか、なんて心の中で文句を云いながら。