第6章 声を聞かせて
『………百っ!!』
叫ぶように名を呼べば、驚いたようにこちらを振り向く百。
彼の表情はここからじゃよくわからないけれど、零は雨の中ひたすらに走った。
「……零!?ちょっと、何してるの!?」
気付いた百が、慌てて走ってくる。
雨の中、びしょびしょになりながら。
「――こら!二人とも!」
なんて、おかりんの声を無視して。
「ああ、もう!こんなにびしょびしょになって……風邪ひいたらどうするんだよ!?」
『百だってびしょびしょじゃん!』
「零がびしょびしょなら、オレもびしょびしょにならないワケにはいかないでしょ!?」
『あはは、なにそれ』
零が笑えば、百もつられて笑う。
「零、マスカラとれて、パンダみたいになってる」
『え、やだ、変?』
「大丈夫、パンダでも可愛いから。もっと見せて、パンダな零」
『じゃあ、百もパンダにしちゃう』
零はごしごしと目を擦ってから、百のほっぺにマスカラをごしごしとなすりつける。
「あはは!じゃあさ、耳もパンダにしちゃお!」
『いいよ、こうして』
零は自身の長い髪をまとめて、おだんごを二つ形作ってみせる。
『どーだ!』
「あははっ!!やばい、超ーっっ可愛い!!」
雨に濡れながらパンダごっこをしていれば、二人の頭上を傘が覆った。
そして、背後から聞こえてきたのは怒りに震えるおかりんの声だった。
「……百くん、零ちゃん……君達ねえ……!!」
傘をさしてくれているのは、おかりんだった。
眼鏡を直しながら、ぷんぷん怒っている。勿論、おかりんもびしょびしょに濡れている。
「アイドルってことをもっと自覚しなさい!!何がパンダごっこだ!?早く車乗って!家に帰ってシャワー浴びて着替えなさい!はい、これで体拭いて!」
おかりんが、自前のRe:valeタオルでわしゃわしゃと百と零の髪を拭いてやる。二人はおかりんに髪を拭いてもらいながら、顔を合わせて笑い合った。