第6章 声を聞かせて
『ごめん、話の途中だったのに……』
「……いいよ」
そういった天は、悲しそうに笑う。
「……泣きそうな顔してる」
『……嘘?』
天はゆっくり零に近寄ると、優しく頭を撫でた。
「……百さんから?」
『………うん、』
「何かあった?」
『……。ちょっと、声の調子が悪くて…』
「……そう。それは心配だね」
『うん……』
泣きそうな顔で、携帯を気にする零。
そんな彼女を見つめてから、天ははあ、とため息を吐いてから、言った。
「……いいよ、行って」
『え?』
「心配なんでしょ。顔に書いてある」
『……でも……話の続き、だったし』
「いいよ。急ぎなワケじゃないし。それに」
『それに?』
―――百さんには、この前助けてもらったから。
ムカつくけど。悔しいけれど。
あの日、助けてもらったのは事実だ。
零を守ることができたのも。
零とまたこうして普通に話せることができるようになったのも。
全部――百さんのおかげだから。
「……なんでもない。でも、今日だけだから」
『え?』
「ほら、早く行ってきなよ」
『……ごめん……埋め合わせは必ずするから!』
「期待しとく。気を付けて」
『ありがとう、天!!』
零はそういって、携帯片手にぱたぱたと階段を駆け上がっていった。
「慌てちゃって……」
恨めしそうにそう言ってから、天は困ったように笑った。
「……ほんと、強敵」
ぽつり、と溢した独り言が、降りしきる雨の中に消えて行った。