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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第6章 声を聞かせて







『……百!もしもし!』


慌てて電話に出てみれば、掠れた百の声が聞こえてくる。


≪零……さっきはごめん≫

『ううん、謝ることなんてないから。おかりんと病院行ってきた?』

≪これから行くところ。……あのさ、今日はもう家に帰る?≫

『あ、ううん。天と会う約束があったから、今バーにいるよ』

≪………あ………そうなんだ…っ!……そっか、ちゃんと仲直りしたんだな!よかったよかった!モモちゃん安心♪≫

『仲直りできたのは百のおかげだよ、』

≪あはは、オレは何もしてないよ!幼馴染同士、募る話もあるだろうから楽しんでくるんだよ!今度話聞かせてね!≫

『うん……ね、どうしたの、百。何か』

≪なんでもない、なんでもない!病院行く前に少し不安になっちゃって、零の声が聞きたくなっただけ。じゃ、おかりん待たせてるから行ってくるわ!≫

『本当に?』

≪本当だって!どうだったかまた後でラビチャいれとくね!じゃあ……≫

『あ、ちょっと百――』


どうやら一方的に電話を切られてしまったようだ。

掛け直してみるも、直留守になってしまう。

切られてしまった携帯電話の画面を見つめながら、零は唇をぎゅっと噛み締めた。


―――何か、言いたいことがあったんじゃないだろうか?百のことだから、何か悩みを一人で抱え込んでいるんじゃないだろうか?


そんなことが、頭の中をぐるぐると忙しなく廻る。


いつも元気いっぱいで、いつもにこにこ八重歯を出して笑ってて。いつも誰かに気を配ってて。


悩んでいれば、いつも一番に気付いてくれる。
困ったときは、いつも一番に助けてくれる。


―――そんな、百しか知らなかった。


三年も一緒にいるのに、百が弱音を吐くところなんて見たことがない。



そんな百の、声が出なくなった。

そんな百が、無理に笑ってた。空元気を振りまいてた。



泣きそうな声で、苦しそうに笑いながら、”このまま声が出なくなったらどうしよう”って言ってた。





『………百っ………』


無意識に、名前を呼べば。
ふと、後ろから声が掛かる。


「――零」

『天……』


振り返ればそこには、天が眉根を寄せながら立っていた。


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