第6章 声を聞かせて
『……百!もしもし!』
慌てて電話に出てみれば、掠れた百の声が聞こえてくる。
≪零……さっきはごめん≫
『ううん、謝ることなんてないから。おかりんと病院行ってきた?』
≪これから行くところ。……あのさ、今日はもう家に帰る?≫
『あ、ううん。天と会う約束があったから、今バーにいるよ』
≪………あ………そうなんだ…っ!……そっか、ちゃんと仲直りしたんだな!よかったよかった!モモちゃん安心♪≫
『仲直りできたのは百のおかげだよ、』
≪あはは、オレは何もしてないよ!幼馴染同士、募る話もあるだろうから楽しんでくるんだよ!今度話聞かせてね!≫
『うん……ね、どうしたの、百。何か』
≪なんでもない、なんでもない!病院行く前に少し不安になっちゃって、零の声が聞きたくなっただけ。じゃ、おかりん待たせてるから行ってくるわ!≫
『本当に?』
≪本当だって!どうだったかまた後でラビチャいれとくね!じゃあ……≫
『あ、ちょっと百――』
どうやら一方的に電話を切られてしまったようだ。
掛け直してみるも、直留守になってしまう。
切られてしまった携帯電話の画面を見つめながら、零は唇をぎゅっと噛み締めた。
―――何か、言いたいことがあったんじゃないだろうか?百のことだから、何か悩みを一人で抱え込んでいるんじゃないだろうか?
そんなことが、頭の中をぐるぐると忙しなく廻る。
いつも元気いっぱいで、いつもにこにこ八重歯を出して笑ってて。いつも誰かに気を配ってて。
悩んでいれば、いつも一番に気付いてくれる。
困ったときは、いつも一番に助けてくれる。
―――そんな、百しか知らなかった。
三年も一緒にいるのに、百が弱音を吐くところなんて見たことがない。
そんな百の、声が出なくなった。
そんな百が、無理に笑ってた。空元気を振りまいてた。
泣きそうな声で、苦しそうに笑いながら、”このまま声が出なくなったらどうしよう”って言ってた。
『………百っ………』
無意識に、名前を呼べば。
ふと、後ろから声が掛かる。
「――零」
『天……』
振り返ればそこには、天が眉根を寄せながら立っていた。