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スローダンス【アイナナ/R18/百/天】

第6章 声を聞かせて




天に指定された場所は、小洒落たバーのようなところだった。
店内には天以外誰もいなくて、隅の方にはバースツールが何脚も立てかけてある。


「お疲れ様」

『お疲れ様、天!貸切?』

「まあ、そんなとこ。お客もいない代わりに、店員もいないから。お酒はボクがつくってあげる」

『あはは、何それ。天、未成年なのにお酒なんてつくれるの?』

「バカにしないで。何飲む?」


隣のバースツールに座るよう促し、天はカウンターでグラスを用意し始めた。


『じゃあ、リンゴジュースで』

「……ぷっ」


天が笑う。
彼の笑顔は、昔と全然変わっていなくて。ひどく懐かしいその笑顔に、心臓がきゅ、っと締め付けられた気がした。


「はい、どうぞ」


天が注いでくれたリンゴジュースで、二人は乾杯する。
リンゴジュースを一口飲んだあと、天が口を開いた。


「ここはさ、楽と龍と出会った場所なんだ」

『そうなの?そんな大事な場所に、私が来てよかったの?』

「ダメだったら呼んでない」

『そっか……。ありがとう、嬉しい』

「零がお礼を言うことじゃないでしょう。…久しぶりだね、こうして二人きりで話すのは」


天は言ってから、バースツールをくるり、と半回転させ、零の方に向き直る。


「……ねえ、零」

『うん?』


ゆっくりと天の方を見やれば。
天はまっすぐ、真剣な眼差しで零を射抜く。


「……あの日――」


天がそう言いかけたとき、零の携帯の着信音が鳴った。
慌てて画面を見てみれば、百からだった。


「……出ていいよ、電話」

『ごめん……っ!ちょっと、電話出てくるね』


零が慌てて席を立ち、電話を耳に充てたまま入口の方へと駆けていく。

その背中を、天は悲しげな眼差しでじっと見つめていた。





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