第6章 声を聞かせて
天に指定された場所は、小洒落たバーのようなところだった。
店内には天以外誰もいなくて、隅の方にはバースツールが何脚も立てかけてある。
「お疲れ様」
『お疲れ様、天!貸切?』
「まあ、そんなとこ。お客もいない代わりに、店員もいないから。お酒はボクがつくってあげる」
『あはは、何それ。天、未成年なのにお酒なんてつくれるの?』
「バカにしないで。何飲む?」
隣のバースツールに座るよう促し、天はカウンターでグラスを用意し始めた。
『じゃあ、リンゴジュースで』
「……ぷっ」
天が笑う。
彼の笑顔は、昔と全然変わっていなくて。ひどく懐かしいその笑顔に、心臓がきゅ、っと締め付けられた気がした。
「はい、どうぞ」
天が注いでくれたリンゴジュースで、二人は乾杯する。
リンゴジュースを一口飲んだあと、天が口を開いた。
「ここはさ、楽と龍と出会った場所なんだ」
『そうなの?そんな大事な場所に、私が来てよかったの?』
「ダメだったら呼んでない」
『そっか……。ありがとう、嬉しい』
「零がお礼を言うことじゃないでしょう。…久しぶりだね、こうして二人きりで話すのは」
天は言ってから、バースツールをくるり、と半回転させ、零の方に向き直る。
「……ねえ、零」
『うん?』
ゆっくりと天の方を見やれば。
天はまっすぐ、真剣な眼差しで零を射抜く。
「……あの日――」
天がそう言いかけたとき、零の携帯の着信音が鳴った。
慌てて画面を見てみれば、百からだった。
「……出ていいよ、電話」
『ごめん……っ!ちょっと、電話出てくるね』
零が慌てて席を立ち、電話を耳に充てたまま入口の方へと駆けていく。
その背中を、天は悲しげな眼差しでじっと見つめていた。