第3章 一章
お腹が鳴り出してどれくらい経っただろう。
部屋の向こうの喧騒に耳を塞ぐように 真っ赤な夕焼けを見ながら物悲しいカナカナという鳴き声を聞いていた。
扉の向こうからドアの開閉音を聞くと家は嘘のように静かになる。
そうすると私のお腹は先程の恐ろしい音が嘘のように止まる。
そして、その代わり胸の音が鳴り出すのだ。まるで足跡のように、地鳴りのように、警鐘のように。
その音が少しずつ聞こえなくなってくるのを感じると、神菜は漸く、安堵するのだ。
良かった。漸く音が消える。この音が完全に聞こえなくなれば、きっと、お母様もお父様も幸せに、なれるんだ。
そう思って、安らかに目を閉じるのに。
明るい外の光が顔を焼くとまた、目を覚ます。
そして、絶望するのだ。
まだ、シナナイ。と、もうすぐ2人が帰ってくるり
せめて、煩わせないように、この音が一生出ませんように、
そして、最後の時はどうか、二人が幸せに微笑んで私を見てくれますように。
「神菜、今日は、ごちそうよ。」「お母様がお前の為に沢山作ってくれたんだ。」
そうして同じ事を繰り返してたある時、両親の声を聞き意識が浮上した。あれは朝だったのか夜だったのか、昼だったのかわからない。でも、久方ぶりに両親に名を呼ばれた。
テーブルには『ご馳走』が並んでいた。
「さぁ、一緒に食べましょう。」
そう言って、二人は私が席に着くのを待っていた。同じ食事が並んでいる。
席に着くと二人は嬉しそうに私を見た。
「いただきます。」
そう言って、匙を手にとる。
タベテワダメ
そんな声が聞こえた気がした。
しかし、私は匙を持つ手に力を込めてご馳走を掬い上げ、口に含む。
きっと、これが最後だから。
神様が願いを叶えてくれたのだ。
だから、私も
「ありがとう。」
体がどんどん冷たくなっていく、胸の音が早鐘のようにダンダンと早くなり、やがて、視界が暗転した。
二人の願いを叶えてあげないと。