第63章 月の王子と星の姫。
それから、ナターシャとクリストフは少しずつ会話を交わすようになった。
好きな果実はなんだ、好きな動物はなんだ、
他愛もない会話を交わすようになった頃には、
ナターシャはクリストフに惹かれていった。
だが、クリストフは季節が変わろうと、白の布を脱ぎやしない。決して姿を見せない。クリストフの瞳だけが、ナターシャの頭にやきつく。
ナターシャ「ねぇクリストフ。あなたの姿を見たいわ」
クリストフ「ナターシャ、お前の目にはもう私が写っているではないか」
ナターシャは首を横に振る。
ナターシャ「いいえ。そうではないの。言ってることは分かるでしょう?見せて欲しいの。あなたの本当の姿を」
クリストフ「ああ、ナターシャ。」
困った顔をしたのが分かった。
そしてクリストフの手がナターシャの頭にいく。
クリストフ「見せてあげよう。本当の私を必ず。だが今はまだ駄目だ。」
ナターシャ「なぜ、なぜなの」
クリストフ「まだ時が来ていない。はやすぎるんだ」
ナターシャ「クリストフ・・・。」
見たい。知りたい。
ナターシャは知識欲と好奇心が旺盛な娘だった。
そのせいだろうか、込みあがる感情がおさえきれない。
だけど、彼と、クリストフといれるなら、
そのためならばナターシャは果物も、金も、なにもかもいらない。いつの日か、そう思うようになっていたのだ。
ああ、クリストフ。好きよ。あなたのことが。
でも、あなたは姿を見せないのね、自分の家族の事は話さないのね。
でも、果物が好きなのね。天気がいいと目を細めるのね。
私があなたのこと知らなくても、あなたは私の事を知ってくれるのね。私はそれだけでいいの。