第63章 月の王子と星の姫。
街にやってきた村娘、ナターシャ。
今日はりんごを売るような。
ナターシャ「りんご、美味しいりんごはどうですか」
通りすがる人々にりんごを差し出す。
ちらりと目をやる人もいるが、買うという人は一向に現れず、時だけが刻々と過ぎていく。
それでも彼女はりんごを売り続ける。
ナターシャ「りんごはいかが。」
その時、一人の男性がりんごを手にとった。
ナターシャの顔には笑顔がこぼれたが、
男性はそのりんごを地面へと投げ、つぶしてしまった。
男性「こんな清潔感の欠片もない、薄汚い村娘のりんごなんて、誰が買うというのだ。とっとと村へと帰れ。それか他をあたることだな」
そう言って男性は去った。
ナターシャは顔もまた無表情となり、つぶれてしまったりんごを見つめた。
今まで売れることも少なかったナターシャの果物だが、
このような行為をされたのは初めての事で、
ナターシャも落ち込んでいた。
気が付くと、今まで浴びていた太陽の光が急に消えたので、顔をあげた。すると、白い布を巻いた男が立っていた。
体もすべて見えない。だが、自分より背が高い事と
青くて綺麗な瞳をしているということだけは分かった。
その男はりんごを指さしこう言った。
「そのりんごを、もらえないか」
ナターシャは目を見開いた。