第37章 反撃開始
彼女がこうなってしまった原因は、今回の奪還作戦で訓練兵時代から一番親しくしていたユミルという少女を失った事にある。
エレン奪還作戦の際に私はエルヴィン団長に付いて動いていたので、ライナー達と104期達のやりとりは直接見ていない。
だけど報告書では聞いている。
ユミルは、当初はヒストリアを口腔内に含んで誘拐したが、ヒストリアによる説得の後は104期達と共に戦っていた。
しかし撤退のさなか、突如として踵を返しライナー達のもとへと走って行ってしまったそうだ。
巨人が群がって身動き取れなくなってしまっているライナーとベルトルトを助けるために。
「ゴエンア」と彼女は言ったそうだ。
きっとそれは「ごめんな」という意味だったのだろう、と報告書には書かれていた。
壁の上に戻ったヒストリアは泣きながら言ったそうだ。
「私を置き去りにしていくなんて…裏切り者…」と。
報告書というものは、見たこと聞いたことを観察者の主観を交えずに書く事になっている。
そこに注釈として見解を付け足すことは問題ないが、ありのままを書かなくてはいけない。
それゆえ非常に端的に書かれるものなのだ。
だけど私はその報告書を読んでいる時、思わず涙がこぼれてしまいそうになった。
超大型巨人にユミルが攫われた時、クリスタが目に涙を浮かべて彼女の救出を懇願しているのを目の当たりにしていたから。
彼女がどれだけユミルの事を大切に思っているのかを知っていたから。
だからその後のヒストリアの、まるで感情を失ってしまったかのような表情の意味がよく分かった。
その心中を思うと私も胸が痛んで苦しかった。