第36章 束の間の日常
話が終わるとすぐ、ハンジ分隊長達は伝令でやって来た兵と共に山小屋を出て行った。残された私は、兵長の方を見る。その視線に気付いた兵長も、私の顔をじっと見た。
「頼んだぞ」
「了解です」
先輩方がいない今、兵長の次に年長者なのは私だ。兵長の負担を少しでも減らせるよう、精一杯サポートしなくては。
それからすぐに、私達も山小屋を後にしたのだった。唐突に荷物をまとめろと指示された104期達は面食らっている様だったが、それでも入団してすぐに起こった修羅場の数々をくぐり抜けて来た子達だけあって、すぐに動き始めた。
装備を整えて山道を行く途中、小高い丘を通りかかった。今日はよく晴れた夜なので、月明かりのおかげで辺りの様子がよく見えた。
「あっ!見てください、あれ!」
サシャが指さす先には先程まで私達がいた山小屋があって、ユラユラと漂うように揺れるオレンジ色の光にぐるりと取り囲まれていた。月明かりに照らされて、それが松明を持った人間達であることがよく見えた。
「危ねぇ…今夜もあそこに寝てたら…俺達どうなってたんだ…?」
ゾッと顔を青くしたコニーの言葉に、私もまた、背筋に寒気が走ったのだった。