第36章 束の間の日常
だがそうしている内に、地面にうずくまったエレン巨人のうなじから突如として蒸気が吹き出し始めた。そして、首に走った亀裂の隙間からエレン本体がむくりと姿を現した。
「エレン!!」
近くで待機していたミカサがいち早く飛び出す。彼女はあっという間にエレンのもとへとたどり着き、うなじから足を踏み出したエレンに手を貸そうとした。だが、エレンはまるで巨人のような唸り声をあげてその手を振り払ったのだ。目が、いつもの彼ではなかった。
「がああっ!!」
「エレン!!テメー、しっかりしろ!!」
ミカサ同様に駆け寄ってきたジャンが怒鳴る。だがエレンに変化は見られない。
その後も唸り声をあげ続け今にも噛み付いてきそうなエレンの様子に面食らいつつも、それでもミカサ達はエレンを羽交い締めにして動きを拘束すると、少し離れたところまで引きずって行って休ませたのだった。
私は、その様子の一部始終を崖の上から観察し続けた。エレンの尋常ではない様子がとても心配ではあったが…薄情なようだが、それ以上に今はこの光景を一刻も早く絵にしたいと思った。
少しずつ、少しずつ、頭の奥が痺れていくのを感じていた。