第7章 穏やかな日
私の記憶の中のおばさんは、いつも明るくてニコニコ笑っていた。
ヤンチャ坊主みたいなライデンのお父さんを叱りつけたりすることもあって、まさに、かかあ天下って感じだった。
「親父はあの日、出来上がった家具を納品に行っていたんだ。その帰り道で襲撃に遭って、飛んできた岩に潰されて…死んだ。
近所の人が教えに来てくれて、お袋が駆けつけた時にはもう遅かった」
淡々とした口調で語るライデンだったけれど、その目は少し赤くなっていた。
その横顔を見たら私は、もう二度とおじさんのあの笑顔は見られないのだという実感が急に湧いてきて、鼻の奥がツンと痛くなった。
ライデンそっくりの顔で笑っているおじさんの笑顔とか、おじさんに作ってもらったミニチュアの家具だとかを思い出したら、次々と涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。
「ごめんね…ライデン、ごめん。あの時、私、自分が逃げるので精一杯で、おばさんたちの事にまで気が回らなかった…。
すぐに家に駆けつけてあげれば良かった…」
ゴシゴシと涙を拭いながら言うと、ライデンはこちらを見下ろして、私の頭をポンと軽く叩いた。
「謝ることなんか何もない。お前だって、おばさんとエリクを失って、逃げることで精一杯だったはずだ。お前が無事でいてくれて、俺は本当に嬉しいんだ。
ずっと探しに行きたかったけど、お袋のこともあったし、手がかりも無くて…何もできなかったのは俺の方だ。
リベルトくんが亡くなって、お前が辛い思いをしている時にも側にいてやれなくて、俺の方こそ本当にごめん」
まだ私の頭の上に乗っているライデンの大きな手が、少し震えているのが分かった。
いつの間にか私たちの足は止まっていて、少しの間何も言わずに涙を流しては鼻をすすりあげていた。
だがそんな沈黙を先に破ったのは、ライデンだった。
「…っ、ホラ、湿っぽくなるのはヤメだ。二人して泣きっ面で行ったら、お袋が心配しちまう」
「…!そうだね」
ライデンに促されて、私も涙を拭うと、ポケットから取り出した鼻紙で思い切り鼻をかんだのだった。