第31章 幸せ
ウォール・ローゼの壁が見えてきた頃、追い付いてきたリヴァイ兵長が私の横に並ぶように馬をつけてきた。
「兵長!!」
その姿を見て、私は思わず声を上げてしまった。張り詰めていた心の糸が緩んで、心の底から安堵した。兵長に限っては絶対に大丈夫だろうと思っていたけれど、やっぱり壁外では何が起こるか分からないから心配だったのだ。
思わず笑顔が浮かんでしまう。
「お怪我はありませんか?!」
「あぁ、大丈夫だ」
返ってくる返事は、いつもと同じだ。前を見据えたまま走るリヴァイ兵長の表情も、いつもと同じ。
私は周囲を見回した。
「ペトラ達はどこにいるんですか?」
現れたのは兵長だけで、班員達の姿が見えない。隊列の別の所を走っているのだろうか?
キョロキョロと辺りを見回している私に、表情を変えないまま兵長は、何の抑揚もない声で言った。
「あいつらは死んだ。女型の巨人に殺された」
「……え?」
私は一瞬、何を言われたのか分からなくて固まってしまった。兵長は今、一体何と言った?……みんなが…死んだと言ったのか?
兵長がもう一度言う。
「オルオもペトラもエルドもグンタも、みんな死んだ」
「う…そ……」
兵長の言っている事が…頭に入ってこない。私の脳が、それを理解することを拒んでいるようだった。
兵長が言った残酷な言葉が信じられず、私はボーッと前を見続けていた。あまりにも大きな悲しみに直面した時、人は泣くことも忘れて呆然としてしまうのかもしれない。そして一拍おいてから、涙が溢れ出してくるのだ。昔、家族を失った時がまさにそうだったように。