第31章 幸せ
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兵長がペトラ達を呼びに行くのを見送ってから、私はハンジ分隊長の指示に従って壁に向かって馬で駆けていた。
先ほど女型の巨人が呼び寄せたからなのか辺りに巨人の姿は無く、撤退行動は順調に進んだ。おかげで、可能な範囲でだが死亡した仲間の遺体を回収することもできた。ヘルゲとミアの遺体も。二人は荷馬車に乗せられて、今は私の横を走っている。
前を走る先輩方は皆やるせない顔をして黙り込んでいて、班の先頭を走るハンジ分隊長の顔は、長い前髪で隠れて見ることができなかった。
(あの巨人の行動は…私たちの想像を遥かに超えるものだった。誰も…予測なんてできるはずがない)
実際そうだと思う。それは言い訳なんかではなく事実だ。だが…あの捕獲作戦のために、一体何人の兵士が死んだ?…中には作戦内容を知らされていなかった兵士もいたはずだ。
ヘルゲ…ミア…、あなた達は自分が一体何のために命をかけたのかすら分からないまま死んでいったというのか。
じわ、と涙が込み上げてきた。今はまだ壁外だ。泣いている場合ではないことは分かっているのだが…どうしても、ヘルゲとミアの最期を思い出して、涙が止まらなかった。