第30章 ささやかな代償
「それは!」
「なんだ?」
ミカサの制止も聞かずにカサカサと紙を開いて、俺は一瞬ぎょっとして手を止めた。まるで鏡を見ているかのように、そこに自分の顔があったからだ。
「これは…?」
「ラウラさんがくれたんだ、この間古城に遊びに行った時に。君がいなくて寂しいだろうからって」
アルミンが言う。ミカサは顔を赤くして俺から紙を取り返すと、丁寧に折りたたんでまた胸ポケットにしまい始めた。
「ミカサはもう、すごく喜んでさ。いつもこの絵を持ち歩いているんだよ」
「アルミン、それ以上は言わなくていい」
ミカサはさらに頬を染めて、アルミンの口を軽く塞いだ。
「ラウラさんが…」
こんな絵、いつの間に描いていたのだろう。まったく気がつかなかった。
(こんな表情、俺がしてるのかな)
その絵に描かれた自身の顔には、自分でも見たことがないような穏やかで幸せそうな笑みが浮かべられていた。
「でも、良かったよ。僕たちエレンが古城でどんな生活を送っているのかって心配だったけど、その絵を見て安心したんだ」
アルミンの言葉に、ミカサはコクコクと頷いていた。
「…あぁ、意外なくらい…穏やかに過ごしてる」
リヴァイ班の先輩方やラウラさんの顔を思い出して、俺は微笑んだ。