第30章 ささやかな代償
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古城における生活は慣れてくれば比較的単調なものだと、二週間ほど経った頃俺は思った。
ルーチン化している城内の掃除をこなした後は、壁外調査に向けての訓練に参加する。それが終われば、また古城に帰ってきて食事をして、地下室で寝る。
そして、ラウラさんの絵のモデルをする。
モデルと言っても肖像画を描く訳ではないから、向かい合って椅子にじっと座っているようなことはない。俺はただ雑務をこなしながら自然に過ごしていれば良いだけなので、気は楽だ。そんな日常の風景をラウラさんは記録している。
その風景の中には俺だけじゃなくリヴァイ兵長やペトラさん達の姿もあって、巨人の謎解明のために描いているのは分かっているけれど、つかの間の穏やかな日常が描き出された絵を見ると、いつも心が和むのだった。
俺はラウラさんの描く絵が大好きだ。訓練兵時代、教本の挿絵を見た時から好きだった。教本用にシンプルに描かれた絵だったけれど、それでもどこか惹きつけられる魅力というものがあった。それを現役の調査兵が描いていると知って、ますます憧れた。
それがまさか、そんな人が俺の記録係として側に付くことになるなんて、訓練兵の頃は思いもしなかった。