第28章 旧調査兵団本部
どうしても割り切れない私は、ドアの前からなかなか動くことが出来なかった。
そんな私の手を、兵長がくいっと引いた。
「行くぞ」
まだ手は重なったままだったのだ。
「えっ、あっ、はいっ」
私は面食らって、兵長に引っ張られるままに歩き始める。
繋がれた手。兵長はズンズン歩いていく。だけど、その手が離れていくことはなかった。
小ぶりだけど、ガッシリとした力強い手。ちょっと乾燥してカサついていて、それでいてとても温かい。
何で兵長はずっと手を繋いでいてくれているんだろう?私を歩かせるためだけだったら、ちょっと引っ張ればいいだけだし、その後も繋いでいる必要なんて無いのに。
考えてもよく分からない。兵長が何を思って、こうしているのかなんて。
だけど、優しい兵長のことだから、きっと私の事を考えてやってくれているに違いない。兵長の深い思慮に、私が気づけていないだけなんだろう。
それに…兵長の手に触れられているのが、私はすごく嬉しかった。
もちろん緊張しているし、手汗だってきっとかいている…。汚くて兵長には本当に申し訳ないんだけど。
だけど、それでも私はこの手を離したくないと思った。このままずっと、兵長の手の温もりを感じていたいと思ったのだった。