第4章 ハンジ分隊長
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そんな訓練兵時代を思い出しながら歩いていると、ヒソヒソと話す声が後方から漏れ聞こえてきたので、(まだ話していたのか…)と呆れてしまった。
さっさと行ってしまおうと歩く速度を上げたとき、後ろからドドドドという大きな足音と、「ラウラ~!待ってくれー!」という、大声が追いかけてきた。
思わず身構えて後ろを振り向こうとした時にはすでに遅く、背後を取られた後だった。
「ねぇ君っ!さっき言っていた、巨人の絵を描きたいって、どういう事っ?!」
ガッバと背中から覆いかぶさるようにして身体に腕が回って、抱きしめられるようにして拘束された。
私の肩口からニュっと顔を出したのは、メガネをかけた中性的な顔立ちの兵士だった。
その人は背が高くて、私の身長では肩から頭が少し出るくらいだった。
「すっげぇ興味ある!ねぇっ!描いたら見せてくれないっ?ねえっ、いいよねっ?!」
ハアハアと、荒い息遣いが聞こえてきて、頬に生暖かい息が当たる。
なっ、何だこの人は?!目が狂気じみてる、怖いっ!
私は、犬に出くわした時の猫みたいな顔をして硬直してしまった。
私の感じた恐怖がその人にも伝わったのか、硬直している私の顔を見下ろしたその人は、「やぁ、ゴメンゴメン」と言って、私から身体を離した。
そしてスタスタと回り込んで私と正面から対面すると、ずいっと、大きな右手を差し出してきた。
細長い指がスラリと伸びていて、とても綺麗だ。
「私は分隊長をやっているハンジ・ゾエ。巨人の研究をしているんだ。よければ今度、君の絵を見せてもらえないだろうか?」
「え……?」