第1章 入団式
「それでは新兵は一歩前へ!一人ずつ名前と抱負を述べよっ!」
その号令に、壇上にズラリと並べられた私達は緊張した面持ちで足を踏み出した。今私は、調査兵団の入団式に臨んでいる。
私たち新兵に向かって声を張り上げたのは、進行を任されたネスさんという男性兵士で、優しそうな目元にまるでどこかの職人さんみたいに頭に布を巻いた姿が、そこはかとなくフランクそうな雰囲気を感じさせる。
「自分は、ヘルゲ・ギュンターでありますっ!人類の勝利のため、心臓を捧げる覚悟でまいりましたっ」
一番左端に立っていた兵士が声を張り上げ、自己紹介が始まった。やや右寄りの位置にいる私にまで順番が回ってくるのは少し先になりそうだが、ドキドキと胸が高鳴った。
何を言うかはもう決まっている。
あの日、兄さんと約束したことを言うんだ。それが私の人生の目標だから。
もしかしたら変な目で見られるかもしれない。変な奴だって笑われるかもしれない。
けど…、それでも私は言う。その目標のために、私は調査兵団に入るんだから……。
「ミア・シュミットです!人類の勝利の一助になるために参りましたっ」
次々と、壇上に並んだ兵士達が声を張り上げていく。簡潔な自己紹介ばかりなので、思った以上にあっという間に順番が回ってきそうだった。
チラリと両側に立ち並ぶ同期達の姿に目をやれば、知らない顔がチラホラ見えた。いや、むしろ知らない顔の方が多いかもしれない。私と同じ南方訓練兵団出身の兵士は、10人もいないと思う。
ちなみに、先ほど自己紹介したヘルゲとミアは数少ない南方訓練兵団の同期である。
南方訓練兵団自体の同期は何百人もいるけれど、そのほとんどは駐屯兵団に行ってしまった。成績上位者は当然のごとく憲兵団に行く。
だから、調査兵団に入団しようという変わり者は、ここにいる10名足らずしかいないという訳だ。