第2章 奪われたもの
普段は朝市などをしている商店街を走り抜けようとした時、ズシンと地響きがした。
あっ、と思う間もなく、ゴチャゴチャと入り組んだ建物の影から巨人が顔をのぞかせた。
その口元はまるでブドウの汁でも塗りたくったかのように、赤くヌラヌラと光っていた。
ぬっ、と人の胴体など簡単に指が回ってしまいそうな大きな手が伸びてくるのが見えたと思った時、ブチッと綱が切れるように、父の手が離れていった。
「リベルト!!ラウラ!!逃げなさいっ!!」
伸びてきた巨人の手は、一番巨人側にいた父の胴体を掴み上げた。
「あああぁっ!!父さんっ!!」
私と兄は叫んだ。どうしたらいいのか分からない。怖い、父さん、そんな。
あちこちから悲鳴の上がる中、ベキベキと父さんの骨が折れる音が、やけにはっきりと聞こえた。
数メートル上空に持ち上げられた父の口から、まるで噴水のように血が噴き出すのが見えた。
「にげ、ろ」
搾り出すようにして発せられた、微かな声が耳に届く。
コバルトブルーの瞳と目が合って、それが何故だか、優しく細められたように見えたのだった。