第16章 尊敬
ハンジ分隊長の名前が出てきて、私は、エルヴィン団長に食ってかかっていった時の様子や、オルオの胸ぐらを掴み上げていた時のことを思い出した。
「分隊長は…時々無茶をされますね」
そう言った私の言葉に、副長は少し困ったような、それでいて愉快そうな笑顔を浮かべて笑った。
「そうだな。あの人は生き急いでしまうから…だが、そんなところも魅力の一つだと思っている。
分隊長のあのバイタリティーが無ければ、巨人研究はもっともっと遅れていただろう。
俺はあの人のそんな姿勢を尊敬しているし、少しでも伸び伸びと活動できるように支えていきたいと思っている。
まぁ、時々暴走が過ぎてしまうことがあるから、それは考えものなんだがな」
副長が初めて「俺」という一人称を使ったのを聞いて、何となくいつもよりもフランクな雰囲気を感じ、私たちの距離も縮まったように感じた。
「そうですね…私もハンジ分隊長のことを尊敬しています」
作業に移ります、と言って私は敬礼をしてから部屋を出た。
今のモブリット副長の言葉を反芻して、壁外でペトラが言っていた言葉と重なった。
あの時は、ペトラが兵長に対して特別な感情を抱いているのではないかと感じたけれど、案外、尊敬する上司に対してはみんな熱烈な想いを抱くのかもしれない。
それは何も「恋愛」という意味だけじゃなくて、「敬愛」ということだってあるんだ。
私は、いかにも女子みたいな勘違いをしてしまった自分を恥ずかしく思ったけれど、でももしも本当にペトラが兵長に恋愛感情を抱いているのだとしたら、微力ながらも応援してあげたいと思ったのだった。