第15章 見えている世界
おじさん夫婦の家を後にして、私たちは街中へと戻ってきた。
「兵長、ついて来て下さって本当にありがとうございました。おかげで無事に絵を渡すことができました」
ペコリと大きく頭を下げて、私は兵長にお礼を言った。
頭を下げた拍子に、ズルリと鼻水が出そうになる。あの後、結局大泣きしてしまった私は、きっとまだ目と鼻が赤いのだろう。
今まであんまり意識していなかったけれど、自分は意外と泣き虫なのかもしれない。
「あれは良い絵だった。…渡せて良かったな」
兵長は言葉少なだけど、いつもその言葉の一つ一つが優しくて、胸にじんわりと染み込んでくるようだった。
きっと、兵長のこういう人柄が、多くの兵士から慕われている理由なんだろうなぁと思った。
誤解されやすいぶっきらぼうな言動。だけどそれでいて相手のことを良く見ている。
兵長の、その不器用な優しさが大好きだ。この方を心の底から尊敬している。人柄的にも、能力的にも。
そう思ったら、何だか急に元気が沸いてきた。
「さぁ!兵長、買い出しをされるんでしたよね?なんなりとお申し付けください!」
「よし。ついてこい」
明るい声になった私に、兵長は少しだけ唇の端を上げた。
私は、スタスタと歩き始めた兵長の小さめの背中を追いかけて、足を踏み出したのだった。