第14章 プレゼント
その表情に若干ビビりながらも、私は言葉を続けた。
兵長がこういう顔をするのは、別に怒っているからじゃない。何というか「癖」みたいなものなのだ。
…もちろん、怒っている時にもこういう表情になるので見極めは重要だけれども。
「先日、私のせいで兵長のクラバットをダメにしてしまったので…。せめて代わりのものを、と思って買ってきました」
箱を机の上に置いて、ずいっと差し出すと、兵長は少し節くれだった手で箱を掴んで、フタを開けて中身を確認した。
「俺がいつも買うものよりも上等だな」
そう言って、箱の中のクラバットを丁寧な手つきで撫でてから、兵長は私の方を見つめた。
私は内心、びっくりした。いや、内心と思っていたけれど、思わず口に出てしまった。
「えっ!……どうりで、ものすごく高いと思った…」
やや呆然としている私に、兵長は相変わらずの無表情で言う。
「…なら返してくるか?新兵の財布にゃ、相当な打撃だったことだろう」
「えっ!か、返すだなんて、とんでもない!兵長に使って頂きたくて買ってきたんですから、どうか使っていただけませんか?」
ブンッブンッと、首がちぎれるかと思うほど頭を振って、私は慌てて返事をした。
いくらびっくりしたからって、値段の事を口に出すなんて、私はなんてダメなヤツなんだろう。
ぜんっぜんスマートじゃない。
だけどそんな私の様子が、兵長はそれほど嫌ではなかったようだ。
「…そうか。なら貰っておこう」
そう言って丁寧に箱のフタを閉めた兵長のうつむき加減の顔は、普段よりも少し柔らかく見えたのだった。