第12章 変わり者
通された部屋の中には、壁際に並べられたたくさんの本棚があり、そこに入りきらない本が床に積み上げられていた。
本だけではく、何かの化石のようなものとか、大きな地図のようなものとか…とにかく学術的な意味を持っていそうな様々なものが渾然一体となって溢れかえっていた。
まさに、「研究室」といった感じだ。
私は布に包んで持ってきた油絵を、本で埋もれた丸テーブルの上に置くと(正確には、テーブルに積み上がっている本の上にだが)、しゅるしゅると布を解いた。
中から現れたのは、先日の壁外調査で遠目に見た奇行種の姿を描いたものと、私の記憶の中にある巨人を描いた二つの絵だった。
なぜ過去の巨人の絵も付け加えたのかと言うと、先日の壁外調査で私は直接巨人と対峙することがほとんどなかったので、モデルにできる巨人が絶対的に少なかったからだ。
二つの絵を布から取り出し終えると、私はハンジ分隊長の方に向けて差し出した。
分隊長は、ゆっくりと手を伸ばしてきて二つの絵を受け取った。その手は微かに震えているように見えた。
無言のまま絵を見つめ続けているハンジ分隊長が、あまりにも黙っているものだから私は少しずつ不安になってきた。
俯いているハンジ分隊長の顔は、長い前髪で隠れてしまい、その表情をうかがい知ることができない。
……もしかして、期待はずれと思われているんじゃないか……。
そんな不安がむくむくと膨れ上がってきた時、ガバッとハンジ分隊長が顔を上げた。
その顔は…頬が紅潮し、瞳はキラッキラに輝いていた。だいぶ興奮されているのだということがすぐに分かるような表情だった。
「すっっっ……げぇよ、ラウラ!!!こんなに上手いなんて!!一体どうやったらこんなふうに描けるんだいっ?!
まるで空間をそのまま切り取ってきたみたいじゃないかっ!
あぁ!今にもあの子達のニオイがしてきそうな気がするよっ!!」
多分、汗とか唾だろうと思うけれど、色々な液体を飛ばしながらハンジ分隊長は叫ぶようにして、絵の感想を言ってくれた。
いつの間にか至近距離にまで顔を寄せられていて、少年のように輝く大きな瞳で見つめられた。その瞳の中に、自分の顔が映り込んでいるのが見える。