第3章 二人の主君
それを感じ取ったのか、奴はこれ以上私の心境の変化を問いはしなかった。
「・・・死ぬかもしれねぇぜ。覚悟はできてんのか?」
「そんなものとっくにできている。だいたい、松永のときも一度、ここへ落ちてくるときにもまた一度、死ぬ覚悟をした。お前についてくると命がいくつあっても足りないのだな」
「・・・フッ」
─ドクン─
そう言うと政宗殿は、いつもの鋭い笑顔ではなくて、初めて、ふわりと霞むような笑顔を見せた。
・・・なんだこの表情、見たことない。
そんなに変なことを言っただろうか。
くそ、顔が熱いっ・・・。
「・・・アンタ怪我は?」
「していない。政宗殿は大丈夫か?」
「俺は何ともねぇが馬が傷ついた。少し休ませてくぜ」
「わ、わかった」
私が落ちてきた衝撃で馬が体勢を崩してしまったのか、擦り傷がついている。
謝ろうにも馬相手には謝れないので、せめてもと思い、休む馬の近くに腰かけた。
・・・政宗殿は、立ったまま、尾張の方向を見ている。