第3章 二人の主君
幸村を守りたい、それは紫乃の本心だった。
しかし、今どうやっても消えぬ望みが、もうひとつある。
『紫乃よ。追いかけたい背中があるのだろう』
『・・・っ・・・』
そんなものございません、とは、とても言えなかった。
紫乃には、幸村の他に、もうひとつ。
付き従い、惚れ込んだ背中がある。
『・・・お館様、私はっ・・・』
『紫乃よ。自分の中に主君が二人おることは、何ら悪いことではない』
『・・・っ!』
『己の心に耳を傾けよ。そしてそれに従え。何時なんどきも、自分の心の声、それが一番正しい道なのじゃ』
『・・・心得ましたっ!』