第3章 二人の主君
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その夜、紫乃も夢を見ていた。
霧のたちこめる自身の心と同じ、暗く出口のない世界。
そこに信玄が現れる夢。
幸村と同じ夢だった。
『お館様・・・!』
『紫乃、ずいぶんと暗い顔をしておるではないか』
『・・・申し訳ございませぬ、お館様。このようなことになり、私は武田のために何のお役にも立てなかった。それが痛いほど分かりました。・・・もう、お館様のおそばを、幸村のおそばを離れませぬ』
信玄はわずかなため息をついた。
まったく幸村に似ている、素直な心根だ、と。
良い意味でも悪い意味でも、そう感じたのだ。
『紫乃、自分を偽るでないぞ。』
『・・・偽る・・・?』
『己の主君。それは生まれついて決められているのではない。己の信ずる者が誰なのか、それは自分で決めることじゃ』
『・・・信ずる者、それは間違いなくお館様、そして幸村様でございます。何も偽ってなどおりません』
『では、お主も、わしの枕元でわしの目覚めを待つこと、それが最善と思うておるのか?』
『・・・それはっ・・・』