第3章 二人の主君
『お館様っ・・・!?』
『幸村よ。貴様、魔王のもとへ一人先に行った独眼竜のことをどう見る?』
『はっ。伊達殿は、織田信長を一人の戦人として許せぬ様子でございました。その凶悪さゆえ、今まで従えた兵たちと正当に討たんとする世の理は通じぬ相手と思ったのでございましょう。
しかしとて魔王を倒すは己の役目、と。腹心の片倉殿まで置いて飛び出していくほどの闘志をたぎらせ出ていかれました』
信玄は頷きもせずに仁王立ちのまま幸村の見解を聞いていた。
幸村の話が終わると、じっと彼の目を見て、その心に語りかける。
『よいか幸村。それがあやつにあって、お前に足りぬものじゃ』
『某に・・・足りぬもの・・・?』
『人の上に立つ者、それに求められるは従者の身を案じることのみではない。
己がどうしたいのか、何を望むのか、何をすべきか。それが分かっている者に、皆ついていく。
その者の目指す道がはっきり見えれば見えるほど、皆も同じ志を持つのじゃ。それが人を動かす原動力となる。』
『・・・お館様っ・・・! 伊達の兵たちは、何の迷いもなく伊達殿の背を追っていかれました。それは奥州筆頭の望みは自分たちの望み、そう思っているからこそ!それはこの幸村がお館様に思うことと違わぬ心!』
『そうじゃ。しかしわしは目覚めぬ。幸村よ。わしがいなくとも、己の信ずる道を行け』
『お館さばぁあ! 心得申しました! 織田の統べる世となる前に、この天下を守る! それが某の今せねばならぬこと! 某がしたいことにございます!』