第3章 二人の主君
目の前の敵に憤りの念はあれど、でもそれでも、己の主君を危険な目にはもう遇わせたくない。
それは、私が幸村様に対して感じていることと、何ら変わりないのだ。
「・・・某は、どうしたらいいのか分からぬっ・・」
「・・・そうかい。じゃあそこで沈んでな。小十郎、紫乃、行くぞ」
政宗殿は、呆れたように襖を開ける。
片倉殿はその後に続いたが、私は立ち上がると、そちらへは行かずに幸村様のお側へと行った。
「・・・政宗殿。私は幸村様のお側にいる」
「あぁ?」
幸村様を一人にはできない。
私とっての主君は、幸村様だ。
政宗殿よりも、幸村様の御身の方が大切。
それは揺るぎない。
何をずっと錯乱していたのだろう。
「アンタまでどうした。俺と尾張に行くんじゃなかったのか?」
私は政宗殿に背を向けた。
そして、弱っておられる幸村様の背中に手を添えて、その悲しみを分け合うように、包み込んだ。
「・・・紫乃・・・?」
少々驚いた様子を見せた幸村様だが、私は構わずに続けた。
もう迷わない。
「私がついております。幸村様。」
私の主君は、幸村様だ。