第3章 二人の主君
──そのときだった。
「幸村様!?」
突然、水の中が赤く染まり、人の形をした影が浮いて来るのが見えた。
───幸村様だ!
私は大急ぎで岸からできるだけ川のそばへと近づき、その影に向かって手を差し出した。
「紫乃! 俺たちも手ぇ貸すぜ!」
岸から伊達の四人組も降りてきて、川に飲まれそうな私の手をガッチリと掴んでくれる。
もう少し、もう少しだ。
四人組は先頭の私が流されないよう、それでいてなるべく水中の幸村様の影に手が届くように、四人で手と手を繋げてくれた。
「・・っ・・・掴んだ!! 幸村様だ!!」
赤の羽織に手が届き、それを思いっきり引き上げる。
折れている手でも関係ない。
この身がどんなに痛もうと、幸村様のためなら痛くなどない。
───しかし、幸村様は意識を失っていた。
加えて、この水中の赤は、幸村様の羽織の色だけではなかった。
・・・お館様の、流れ出す大量の血の色だったのだ。
「お・・・お館・・・様っ・・・・?」
水は真っ赤に染まっている。
これが全部、お館様の血・・・?
止まらない。
止まらないっ・・・
「・・・お、お館様っ・・・お館様ぁぁああ!!!」