第3章 二人の主君
「紫乃。・・・あの堤、とても川の力だけで壊れたとは思えねえ」
「どういうことだ?」
「・・・あの亀裂、ありゃどう見ても刀傷だ。誰かがわざわざ堤を崩したに違いねえ」
「なっ・・・」
なんだと!?
それは誰が、何のために・・・?
「おそらくこれに乗じて魔王の手先が動き出そうとしているのかもしれねぇ。・・・政宗様も、今は不用意に動かれない方が良いかもしれません」
そうか、竜王の堤が決壊するとあっては、兵たちはそれを防ごうとこうして集まる。
すると城の防壁は手薄になり、そのすきに手負いの政宗殿が討ち取られてもおかしくはない。
「政宗殿! ここにいては危険かもしれぬ! 佐助様に守りをつけてもらおう! こちらへ来い!」
「冗談言ってんじゃねーよ。なんでこの俺がお守りされなきゃならねぇんだ。もし魔王の手先の仕業だってんなら丁度いいぜ。ここでたたっ斬ってやる」
「いいから!」
いつもの政宗殿との押し問答になってしまい、片倉殿が困り出した。
──そのときだった。
「お館様ぁ!!!!!」
離れてしまった堤の方向から、今まで聞いたことのないほど大きな幸村様の叫び声が聴こえたのだ。
「幸村様っ・・・?」
『お館様』と叫んでいた。
私たちはすぐに堤の方へと駆け寄ったが、幸村様はなにか必死で川の水の中へと飛び込んでいった。
・・・まさかっ・・・?
「筆頭! 紫乃! 甲斐の虎が、あの明智にやられちまいました!」