第3章 二人の主君
「・・・でもおかげで幸村様とは、兄弟のように育つことができました」
「・・・兄弟のように・・・でござるか?」
「あ、い、いえ、もちろん今は主君と忍。兄弟ではございませんが」
私がそう言うと、ふいに幸村様が寂しそうな表情をした気がした。
「紫乃・・・・某は・・・某はっ・・・」
「幸村様?」
幸村様が何か言いかけているところに、屏風の向こうでストンと軽い音がした。
屏風にうつる影で、それが佐助様だと分かる。
「・・・どうした佐助」
幸村様が屏風の外に向かって呼ぶと、佐助様は深刻そうな顔をして中へ入ってきた。
「旦那。武田軍はすぐに招集だ。・・・竜王の堤が決壊する。」
「なっ・・・なんだと!?」
竜王の堤。
それは甲斐の地を水害から守るため、かねてよりお館様が長い年月をかけて築き上げた堤防。
それが決壊することは、戦など比ではないほどの被害をもたらすこととなる。
川の氾濫が起これば、里も畑も甲斐の民もすべてを飲み込んでしまうのだ。
「すぐに参る! 行くぞ佐助!」
「幸村様っ! 私も行きます!」
「駄目だ! 紫乃は待っていろ! 折れている腕が悪化するやもしれぬ!」
「それでもっ・・・」
「某はお館様に着いていく! 紫乃は民のためにできることをするのだ!」
部屋を飛び出していった幸村様と佐助様は、すぐに馬を出して竜王の堤へと行ってしまわれた。
私もこうしてはいられない。
武田の兵が総出で堤防を塞き止めに向かっているのだ。
堤防を押さえることはできずとも、私も材木を運ぶくらいならできる。
このようなときこそ、武田のために全力で働かなくては。
いつまた伊達に混じる日々となるのか分からないのだから、甲斐にいるうちにお役に立ちたい。
装束を締めなおし、私も城を飛び出した。