第3章 二人の主君
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「幸村様。なにやら空に不穏な雲が漂っていると思いませんか? 先程まで晴れていたのに、もう雨が降っています」
「そうでござるな・・・。魔王の天下とは、世にこの雲のような不安をもたらすものなのであろう」
城内の一室。
ここに幸村様と二人でいるのは久しぶりだ。
昔からよく幸村様といたこの場所で語らい合うことに、私は甲斐にいる時間を費やそうと考えた。
先程のこと、私なりに深く反省したのである。
狙われているのは武田だって同じなのだ。
お館様はもちろん、甲斐の若き虎と称される幸村様の身だって危ない。
政宗殿のことばかりではなく、己の主君である幸村様との時間を大切にしなければ。
「紫乃は幼き頃、ここで某と手合わせをしたこと、覚えておられるか?」
「もちろん覚えております。私が手合わせ願いたいと申し出、幸村様はお困りになりながらも応じて下さったのですよね。私も幼かったゆえ、今考えればなんと失礼なことを・・・」
「失礼などではござらぬ。某は、嬉しかったのだ」
「どうしてですか?」
「・・・某、それまで女子と接したことはなく、友である紫乃にもどこか距離を感じていた。紫乃はそんな某を見透かし、女子ではなく一人の戦人として扱うよう、手合わせを申し出たのだと」
その見解は当たっていて、私は幼い頃の自分を思い出して恥ずかしくなった。
私と接するたび、幸村様はどこかぎこちなくなることを感じていたのだ。
そんな幸村様との距離を縮めたい一心で申し出たこと。