第3章 二人の主君
「オイ、聞いてんのか」
「・・・・な、なんでもない・・・」
顔を青くしたまま歯切れが悪くなった私に、政宗殿は首をかしげた。
対して私の頭は混乱していた。
おかしい。
謙信殿が討たれたことで、次は甲斐と奥州も危うくなった。
・・・本来なら私は、すぐにお館様の身を案じねばなぬはずなのに。
それなのに、真っ先に頭をよぎったのは、政宗殿のことだった。
このような事態になり、私は政宗殿に同行する今の任務よりも、お館様や幸村様をお守りすることを考えなければならないのに。
─それなのに。
なぜ私は、政宗殿のことばかり考えているのだ。
これでは本当に伊達の忍のようではないか。
こんなことではいけない。
いくら伊達に対して情があるとはいえ、私は武田の人間なのだ。
今はお館様の御身を一番に考えなければ。
「よいか紫乃。己の主君はいつ狙われてもおかしくないと心得よ」
「はい!」
・・・己の主君。
お主にとってそれはだれか、と。
じっと私を見据えるお館様は、私にそう言っているように思えた。
まるでこの心を見透かされているように。