第1章 奥州に忍ぶ
独眼竜・伊達政宗。
あまりに幸村様とは違っている。
情に溢れ、立場関係なく誰にでも真っ直ぐなお心を持っている幸村様。
それに比べてこの伊達政宗、なんて失礼な奴なんだ。
「悪いことは言わねえ。甲斐に帰って飯でも炊いてな」
ブチッ
嘲笑うように言った独眼竜のその言葉に、私の堪忍袋の緒はついに切れた。
「ふざけるな・・・」
「あ?」
「独眼竜!お前など、幸村様にかかればすぐにこの奥州の地に這いつくばり、我ら武田の肥やしとなるに決まっている!」
「テメェ! 奥州筆頭に向かってなんて口をききやがる!」
ついに片倉小十郎がどなり声をあげて刀に手をかけた。
この男のことは甘く見てはいけないと佐助様が言っていた。
独眼竜が全幅の信頼を置いている男。
それでも私は収まらない!
「やれるものならやってみろ! 幸村様のお手を煩わすまでもない! 私がお相手致す!」
しかし、いざ私が構えをとっても、二人は構えようとしなかった。
「・・・やめときな嬢ちゃん。俺はアンタみたいなのとやり合う趣味はねえ。さっさとここから出てくこったな」
「なっ・・・私は嬢ちゃんではない!幸村様をずっとお側でお守りして・・・」
「おい、聞こえねえのか。政宗様は、甲斐に帰れと言っている」
──ほどなくして、私は城を追い出された。
何ということだ。
私は何をしでかしてしまったのだろう。
頭に血がのぼって、つい・・・。
これでは本末転倒だ。
もう伊達との同盟を形にすることなどできない。
・・・でも、甲斐に戻ることは、もっとできない。
何をやっていたんだと失望される。
一時の己の感情を制御できずにお館様の策を潰すなど、忍として失格だ。
どこにも帰れない。
奥州の空に月が昇っても、私は城から離れることはでなきなかった。
その光は、あの独眼竜の目に、少し似ていた。