第1章 奥州に忍ぶ
「織田との対面にて、その禍々しさ、武田と同じく伊達も感じ取ったでありましょう。そのことで、我々武田が考えておりますは、武田と伊達、上杉に徳川、それに・・・」
「ハッ、何かと思えば、前田の野郎と同じことを言いにきたってわけか」
「違う!それを承諾しなかったことはすでに知っております。しかしそれでは日ノ本に明日はない。さすれば、私を伊達軍へ置いていただきたい」
「・・・あぁ?」
「決して邪魔は致しません。同盟を結べずとも、こちらはこちらで伊達軍を頼りにさせていただく所存」
この言葉を言うのに、どれほどの恥を飲み込んだだろう。
主君以外の武将に「頼りたい」などと。
それでも、私はこの任務を成功させなければならたい。
そのためにはこの伊達軍に潜り込むことは必須。
「武田の忍ふぜいが俺の周りをチョロチョロしていようが関係ねえ。好きにしな」
忍ふぜい・・・?
なんて口の悪い・・・。
「お待ち下さい、政宗様」
「何だ小十郎」
言い方は何にせよ許可の言葉を貰ったところだったのに、そこへ片倉小十郎が横やりを入れてきた。
「かの同盟の話は、織田にも、他国の武将にも知れております。この機に伊達軍に紛れ込もうという奇特な申し出、とても信用なりません」
「・・・確かにな」
「なっ・・・私は、紛れもなく武田の忍だ! 武田の使いで参ったのだ!」
むきになって言い返すと、さらなる重圧をかけるように片倉小十郎はその目を光らせる。
「武田の忍であっても同じことだ。敵には変わりねえ。寄越した人間がくノ一だってことにも納得がいかねえんだよ」
「ハッ、確かに、俺たちの行く戦場は、アンタみたいなのが来るところじゃねえな」
独眼竜に対する口調とは打ってかわって、片倉小十郎はすごみのある口調で私を追いたててくる。
それに、くノ一だということがなぜいけないのだ。
それは、この二人が、女である私が信用できないと思っているからなのだろう。