第2章 伊達の流儀
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独眼竜はみるみる回復し、いつものように暇さえあれば刀を振るうようになっていた。
私も手首を包帯で固めているが、心は軽くなっている。
不思議だ。
あんなに自分の心の中に闇がたちこめていたのに。
──それに、なぜだかあれから、奴との距離も近くなった気がするのだ。
私が広間へ入ると、庭へ出ていた彼は刀を鞘へ戻し、こちらへ戻ってきた。
「おい紫乃。暇ならお得意のにぎり飯でも作って持ってきな」
「は!? 暇ではない。なぜ命令されねばならぬのだ。だいたい私は片手が折れているんだぞ。少しは労ったらどうだ」
「今は俺がアンタのheadだろ?」
「た、た、確かに伊達軍の一員として動いているが、私は飯炊き係ではない! 勘違いするな! ま、ま、まっ、政宗殿!」
自分で言って恥ずかしくなった私は、思いっきり奴から目を反らした。
いつこの男のことを名前で呼んでやろうかと構えていたはずなのだが、いざ呼ぶともう恥ずかしいのなんの・・・
「・・・ハッ、どうした? じゃじゃ馬が随分としおらしくなったじゃねーか」
「うるさい! ・・・お前が私を名で呼ぶからだ! 伊達軍の一員となり、そしてお前が私を認め、名で呼ぶ以上は、私がお前を名で呼ばぬ道理はない」
「ったく、いちいち考え方が固いんだよな。真田幸村そっくりだぜ」
「なっ・・・政宗殿といえど、幸村様を侮辱することは許さんぞ!」
政宗殿が回復しきれば、体勢を立て直して尾張へ発つと言い出すだろう。
おそらくその日は近づいている。
それまでの間は、この甲斐の地で、身も心も不安ないくらいに療養してほしい。