第2章 伊達の流儀
どうしようもない悔しさで折れている方の手で拳を握りしめたとき。
─そのとき。
その手を、独眼竜の手が包むように触れてきた。
「分かるに決まってんだろ。アンタは俺が見てきたなかで、一番crazyな忍だ」
・・・は?
な、なにを・・・
「アンタなら大丈夫だ。この俺が認めてやってんだ。昨日の災難は早いとこ自分で蹴りをつけな」
「・・・独眼竜・・・」
「悩んでる暇なんかねぇ。アンタは俺と尾張に行くんだろ」
・・・独眼竜の言葉は、閉めきった心に風が吹き込んでいくようだった。
そうか。
自分を責める必要も、忘れる必要もない。
いつも通り、このことを乗り越えて、前に進めばいいのだ。
いつもの私と、何ら変わらない。
いつものやり方でいいのだ。
「・・・独眼竜・・・」
「それともうひとつ言っておくぜ。一度しか言わねぇからよく聞きな。」
独眼竜は触れていた手を離して、折れていない方の手を掴み直すと、そのままグッと手を引いて私の体を引き寄せた。
彼の目と、私の目。
お互いの目の中に何が映っているのか見えてしまうほどの距離。
そんな至近距離で、この独眼竜は自信の塊のような表情で、こう言った。
「・・・いいか。俺は二度と、アンタをこんな目には合わせねぇ」
「・・・っ・・・」
「だから余計なこと考えてねぇで、やかましく俺の後を追っかけてきな。それがアンタの任務なんだろ?
紫乃」
・・・なっ・・・
こんなときに、名前を呼ぶな。
不意打ちもいい加減にしろ。
卑怯だろ、そんなのは。
そんなのっ・・・
──いつだって独眼竜の心は真っ直ぐだ。
それが今、私の光になっている。
こんなにも真っ直ぐに、私が一番欲しかった言葉を探し当ててくれる。
どうして・・・?
──どうしてこの男は、こんなにも私の心を震わせるのだ。